(キャラクター)コンテンツ事業について

けものフレンズ2」問題について語ります。

 

といっても、語るのは物語の内容などではなく「けものフレンズ2」が始まる前に起きた騒動、前作「けものフレンズ」の『たつき監督+アニメーション制作会社・ヤオヨロズ』と『製作委員会=出資企業(の内の一つ)であり版権元の角川』との間に起きた騒動、そしてその対応についてです。

 

騒動が起きた当時、自分はそんなに興味があったわけではなくリアルタイムで追っかけたりしてはいなかったのでWIKI等で確認した騒動の経緯を以下に箇条書きでまとめます。

 

①「けものフレンズ」アニメ第2期の制作が発表されたが『たつき監督+アニメーション制作会社・ヤオヨロズ』がアニメ第2期の製作から外れる旨の連絡を『製作委員会=出資企業(の内の一つ)であり版権元の角川』から受けたとたつき監督が自身のツイッター上で発言。

 

②製作委員会から、関係各所(『出資企業』)への情報共有や連絡がないままでの(『たつき監督+アニメーション制作会社・ヤオヨロズ』による)作品利用(12.1話の製作、公開)があった事、製作委員会が情報は事前に共有してほしい旨の正常化を図る申し入れをしたが、『アニメーション制作会社・ヤオヨロズ』側が拒否し「条件は受け入れられないので辞退したい」との申し出をしてきたという声明が発表される。

 

③『ヤオヨロズ』側のコメントとして、発表にある様な情報共有に関する問題は存在せず、監督・アニメーション制作の降板についても辞退などではなく委員会からの一方的な通達であったという認識を示した。

 

④『角川』の井上伸一郎専務が、「この度の騒動に至るまでの事態を正確に把握してなかったのは不徳のいたすところです。~(以下略)」と今後についての自らも参加し話し合いを始める事を表明。

 

⑤最終的には結果は覆らず「けものフレンズ2」における『たつき監督+アニメーション制作会社・ヤオヨロズ』の降板が決定する。

 

その後も色々と(「けものフレンズ2」炎上等の)問題がある様ですが、放送前の騒動に対する『角川』の対応についての「問題」を今回語る上で重要なのは上記で事足りるのでここでは特に扱いません。

 

自分が考えるこの騒動における一番の問題点は、「けものフレンズ」プロジェクトいう案件に携わる担当者一人ひとりの【自らが扱う『(キャラクター)コンテンツ事業』というマーケット規模に対する理解・認識の希薄さ・欠如】であると思っています。

 

ネットで少し調べたところ、前作「けものフレンズ」の特典付きブルーレイの一部売上だけで20万枚とあり、これはDVDや通常版BD、BOX等を含めて考えると最終的な売上は数十億円となります。さらにゲームやグッズ、その他関連商品等の売上も含めるとそのマーケットは100億円近い規模となります。

 

もし、この「たつき監督降板騒動」といったものが起こらず、何事も問題がなく監督・アニメーション制作会社が続投し「けものフレンズ2」が始まっていれば、映像商品の売上だけを考えても前作と同じくらい、少なくとも数億~数十億円規模は確実だった事でしょう。また当時は世間のブームも手伝っていたので、このマイナスイメージの騒動がなかったら、ゲームや関連グッズ、イベント・企業コラボ等も考えるとやはり100億円規模のビジネスだったであろう事は想像に難くありません。

 

『アニメーション制作会社』側と『製作委員会(出資企業・版権元)』側のこの両者の間に何があったのか、色々と噂はある様ですがその詳細や何が真実は分かりません。
ただ、あくまで個人的な感覚ですが、騒動の経緯(①②③)を見ているとどうにもアニメーション制作会社側の「担当者」と製作委員会(出資企業・版権元)側の「担当者」が、お互い【感情的】になって【独断専行】で事を大きくして収まりが付かなくなったのではないかという気がしています。

 

その証拠に④で角川の井上伸一郎専務が出てきた時に「騒動に至るまでの事態を正確に把握してなかった」と発言されており、担当者間レベルのみで話が進められてきた事が判ります。

 

前述した通りこの「けものフレンズ」プロジェクトは数十億~百億規模のプロジェクトです。決して、企業に属する一担当者が【独断】で【感情的】に判断・決定して良い事ではありません、必ず上層部に報告・連絡・相談し指示を仰ぐべき案件です。
『アニメーション制作会社』側と『製作委員会』側との間に何がきっかけでいざこざが起こったのかは分かりませんが、おそらく資本主である『製作委員会』側の担当者が「言う事聞かないならお前たちはクビ・降板ね」と決定すればそれで解決すると安直に考えたのではないでしょうか。

 

『製作委員会』側の担当者は、本当にその決定・結果の先に、何十~何百億という損失を自らが所属する企業に与えると分かった上で行なったのか甚だ疑問です。
普通の企業であれば、一社員(プロジェクトの一担当者)が、会社に対し本来得る事が出来たかも知れない何十~何百億の利益をふいにした、損害を与えたという事になれば、左遷、降格、下手すりゃクビになってもおかしくない事案です。

 

そして、④で事ここに至ってようやく『製作委員会=出資企業(の内の一つ)であり版権元の角川』の井上伸一郎専務(上層部)が話し合いに参加される事となりますが、⑤結局、結果は覆らず『たつき監督+アニメーション制作会社・ヤオヨロズ』の降板が決定します。

 

ここが本当に理解できないのです。出資企業の上層部が話し合いに参加した上での「降板決定」、それは本当に利益・利潤を追求する営利企業としての正しい商業判断だったのでしょうか?

 

もし、上層部が動いた事で決定が覆って監督・アニメーション製作会社の続投する事となり「騒動」が沈静化し「けものフレンズ2」が成功すれば、さらに3期4期と続き、200億300億といった数百億円の規模(もしかしたら数千億規模)のマーケットに成長する事も充分あり得ると想定されます。
それなのに何故200億300億という利益をドブに捨てる事も已む無しという判断を営利企業として行なう事が出来たのか理解できません。『アニメーション制作会社』側と『製作委員会』側との間に起きた騒動の発端は何だったのか、余程許せない何かが・譲る事が出来ない何かが事があったのか分かりませんが、角川が自らの会社の利益を考えて【感情的】にならずあくまで「営利企業」として冷静に判断し少し「大人の対応」をできていれば、数百億という利益を得る機会を棒に振る事はなかったのではないでしょうか?

(実際に「けものフレンズ2」以後、「~3」のプロジェクトも動いている様ですが、そこまでのプロジェクト展開を見据えていて何故敢えて売上を落とす様なマイナスイメージを発信するのか理解できません)

 

エンターテインメント産業は人気商売です。生活必需品を売っている訳ではなく「娯楽」の提供を商売としています。その提供主が世間から反感を買う、嫌われる様な事をしても一文の得にもなりません、それどころか会社・企業として確実にマイナスです。好かれてこそ・人気を集めてこその商売なのです。世間を敵にして成り立つ商売ではないのです。『製作委員会』側と『アニメーション制作会社』側の両者の間に何があったか詳細が見えてこない以上、資本家階級である『製作委員会』と労働者階級である『アニメーション制作会社』という関係から世間には、権力のある強者が一方的に弱者を虐げている様に見えます。

 

判官贔屓は世の常です。世間を納得させるだけの理由がないとシリーズの人気を支えていたファンは一転して敵に回り、2期の失敗は火を見るより明らかだったろうになぜ今回の様な判断に至ったのでしょうか?取り敢えずは2期を成功させるためにも、世間に対し表では頭を下げた姿を見せ裏では舌を出して嗤ってる(ヤオヨロズを利用できるだけ利用してやる)くらいの強かさが営利企業としてあるべき姿であったと思うのですが何故それができなかったのでしょうか。

 

それもこれも、自分達が扱っている「コンテンツ事業」というものがどれだけの規模の利益を発生させ得る商品であるかを充分に理解・認識していない事が原因だと考えます。何十、何百億の損害を出したという意識がプロジェクト担当者も会社・企業・製作委員会グループ側も希薄である、もしくは欠如しているのだと思われます。

 

キャラクターコンテンツ事業に携わるという事は、DVD・BDや単行本を売るという目先の利益・出資金を回収するためだけではなくその先にはさらに多くの利益が潜んでいる事を理解・認識する必要があります。3期4期と以降も長く続いてゆく作品になれば「ポケモン」や「妖怪ウォッチ」にも匹敵する数千億規模の巨大マーケットに成長する事もあり得る事を想定して行動すべきだったのです。

 

けものフレンズ」はそのポテンシャルを充分に持っていたと思っています。それを理解・認識しないまま「営利企業」として正しい判断をできずに巨大マーケットの卵を「死にコンテンツ」にしてしまった事の罪は大きく、自らが扱っている「コンテンツ事業」というマーケットの規模を、その重要性を、企業(上層部)も担当者一人ひとりも理解すべきなのです。会社・企業としての判断が何十何百億という利益をドブに捨てる・大プロジェクトを失敗させるという判断ならばそんな会社は普通の会社ではありません。健全な企業であるならば、一刻も早く「コンテンツ事業」に対する認識を改める教育を(企業のトップから各担当者まで)行ない正常化されるべきだと考えます。

 


と、ここまで述べた事は、小田切 博著「キャラクターとは何か」(ちくま新書/2010年)からの受け売りです。(「キャラクターとは何か」では【雷句誠小学館の担当編集との間に起きた原稿紛失問題】を例に挙げられています)
「コンテンツ事業」に関わってる全ての人間は本当に小田切さんの本を読んで「キャラクターとは何か」を勉強するのが良いと本気で思っています。


そして「アイドル」という「コンテンツ事業」で起きた騒動『NGT問題』についても同じ事が言えます。

 

AKBグループ傘下であるNGTという一プロジェクトの運営の一担当者が、AKBグループトップ・秋元康に指示を仰ぐ事もせずに行なったその自らの判断の結果が、NGTプロジェクトに数億数十億の損失を出し、さらにAKBグループ傘下全体に対してもマイナスイメージを発生させ損害を与える事を果たしてどれだけ理解していたのでしょうか。

 

社会、世間が納得しない様な回答・対応では反感を買う事は必至でアイドルという人気商売が成り立つわけもなくその結果、信用を失いスポンサーも離れ、AKB傘下のグループ全体にもイメージダウンを与え、NGTそしてAKBグループが本来得る事が出来たはずの何十何百億という利益を失わせた、大損害を与えたという認識・個人で背負えるはずのない責任の重大さの認識が果たしてどこまであったのでしょうか。

 

(つい最近、『NGT問題』に関する裁判の判決がありましたが、当事者不在のこの裁判は全くの茶番・パフォーマンスにしか思えず、社会・世間が納得しない様な対応では意味がない事を理解・認識していない事が窺えます)

 

『NGT問題』の件についても『けものフレンズ2』問題と同様で、個人(もしくは会社でいう一部署に過ぎないNGT運営)の感情や思惑だけで動いて良いものではなく、必ず上層部に報告し「企業」として判断すべき事案なはずです。

 

本来であればこのニュースが世間に出た段階で、下手を打てば何十何百億という損害になる事を理解し、秋元康(上層部)が積極的に動くべきだったと思ったのですが、「けものフレンズ2」問題と同様に、(上層部が介入する事での)世間が納得する様な対応となる展開はありませんでした。

 

けものフレンズ2』にしても『NGT問題』にしても、おそらくその担当者達には今そこに・目の前に見えている利益ではないために、自らが扱っている「コンテンツ事業」の規模というものが見えていないため、何十何百億という損害を与える事になるというその意識が薄いのだろうと思われます。

 

漫画・アニメ・芸能(アイドル等)のエンタメ業界の「コンテンツ事業」に関わる人間は、「コンテンツ事業」の持つ潜在的利益その重要性を、企業(上層部)も担当者一人ひとりもが理解すべきなのです。


上記で「企業(上層部)も」理解すべき、と書きましたがおそらく企業(上層部)側はその潜在的利益についてはさすがに理解はしていてものと考えています。理解していながらそれでも企業(上層部)側が『けものフレンズ2』、『NGT問題』で今回の様な判断をした理由はおそらく、日本のエンタメ業界の悪癖、エンタメは大量生産・大量消費されるものという認識になってしまった・慣れきってしまった事に因るものではないかと考えています。


つまり今回のプロジェクトは失敗しても次のプロジェクトで取り返せばいいという、使い捨て「コンテンツ」という認識が根底にあるからだと感じます。
本来、「作品(キャラクター)」というものは長く育てるものであり、大量生産・大量消費されるべきものではないと考えます。

 

アメリカでの犬やネズミをモチーフにしたキャラクターやフィンランドでの妖精を基にしたキャラクター等は50~70年以上も世界で愛されるキャラクターとなっています。対して日本はどうでしょうか。現在の作品・キャラクターが50年後も世界から愛されるキャラクターとして残っているでしょうか。

 

(強いてあげるならば、「ドラゴンボール」でしょうか。漫画連載終了・アニメ放映終了後の20年30年経った今でも新作アニメ・ゲームが制作されているのは「作品」の力(使い捨てにする事が出来なかった作品の持つ力)だと思います。…単行本発行部数や売上等で上回る作品として「ワンピース」がありますが、その真価は、漫画連載終了・アニメ放映終了後の20年30年後にドランゴンボールと同様に扱われているか否かで問われるべきものと考えます)

 

エンタメ業界の大量生産・大量消費が完全に悪だと思いませんし言いません。その大量生産があったからこその今日のアニメ大国、ジャパニメーションサブカルの発展も存在し得たと思っています。

 

日本のエンタメ黎明期はまだ「作品」を育てる意識があったのかも知れません。スポンサーも制作者も一つの作品に対し如何にヒット作を作るか頭を悩ませていたと思われます。

 

しかし、苦心の末送り出した作品がヒットしなかったり、低予算の作品が思いがけずヒットしたりと、作品がヒットする/しないの予測が難しく、いつしかヒットを予測する事を・ヒット作を作る事を諦め、低予算で数打って当たればラッキーという考えへ変遷していったのでしょう。

 

昔のロボットアニメでの、作品が変わっても同じ金型を使って玩具を作る手法であったり、歌って踊れる「アイドル」という箱を作り、その箱へ次から次へとタレントを投げ入れ、ハマれば幸運あぶれたら即捨ててを繰り返してきた芸能業界であったりの、エンタメ業界のスポンサーによる安易なリスク回避の方法が長らく蔓延・定着してしまった結果が、現在のエンタメ業界の使い捨て意識、「作品」一つひとつに対するリスペクトが失われてしまった原因であると思われます。

 

「作品」「キャラクターコンテンツ」に対する充分な理解・認識と、「作品」一つひとつに、そしてその制作者に対するリスペクトがあったなら今回のような問題は起きなかったと考えます。

 

大量生産・大量消費によるジャパニメーションサブカルの発展の時期はもう充分でしょう。『けものフレンズ2』、『NGT問題』近い時期に起きたこの二つの事件を機に、漫画・アニメ・芸能等のエンタメ業界は今一度「作品」に対し敬意を持って真摯に向き合う時が来たのではないでしょうか。


補足
「作品」に対し敬意を払い大事に扱う事は大切ですが、アメリカの様に権利でガチガチに固めるのも考え物です。日本の現在の漫画家やアニメーター等のクリエイターの何割かは同人即売会から輩出されています。これは二次創作をある程度黙認してきた日本の特殊な土壌であるからこそと思っています(この辺りについても「キャラクターとは何か」で述べられています)。

 

アメリカの土壌では決して芽が出る事がなかったであろう「コンテンツ」が育った日本のこの土壌は守るべき宝だと考えます。「作品」を大事にするあまり締め付けを強める(アメリカ化する)と「新しい作品」が育ち難くなってしまいそれはアニメ大国・ジャパニメーションの終焉へと向かわせるでしょう。「作品」に敬意を払いつつも
「新しい作品」が育ちやすい日本独自の土壌へ発展する事を願っています。


(2020年04月12日11:33 mixi日記投稿分)