漫画「ワールドトリガー 24巻」 ~感想

漫画「ワールドトリガー 24巻」を読みました。
以下、多少のネタバレを含む感想となります。


いやぁ…読み終えて、ホント唸らされましたね…。
24巻はバトルというバトルがなく基本的に机を囲んで喋っているだけで物語が展開されます。
これだけ聞くとすっごい地味な巻な様に思われるのですが、ところがどっこい、面白いんですよねぇ。。。
基本的に会話だけという話・物語展開で1巻をもたせる、そしてさらにその物語に魅入らされる…葦原さんのこの構成力には舌を巻くばかりです。

 

本当に、座学みたいな話のみでこれほど面白く感じるのは、やはりキャラが良く造られてるから、なんですよね。
それは、もし今巻と全く同じ内容を、なにも愛着のないキャラが展開したと考えた場合、そこに面白みを感じる事はなく動きのない展開をただただ退屈に感じるだけだろうと、容易に想像できると思います。

 

アニメの感想でも書きましたが、葦原さんのキャラ造りの巧さ、A級隊員からB級隊員までよくあれだけの数のキャラを創り出して、さらにそれを活かした物語展開が出来るなぁ、と驚嘆するのみですわ。


キャラクター(性格)とそれに合わせた(納得を持たせる)キャラデザを優に50を超える数を創り出し描き分ける凄さ…。
昨今の多くの漫画・アニメのキャラは表面的なキャラ付けのみ…~真面目・優等生キャラ、ワイルド・オラオラ系キャラ、弱き・引っ込み思案キャラ、無口・クールキャラ、陰気・ウジウジ系キャラ、チャラい・パリピキャラ、硬派・漢キャラ、etc…~の表面的なキャラ付け・属性のみのキャラばかりで深みがない、人間味がない、本当の心の内が見えない、つまらないキャラばかりなのですが、
ワールドトリガーのキャラは性格付けがしっかり成されていて、あ~このキャラはこういうセリフ返す奴だよな、こういう事言いそう、というのが容易に想像出来るほどにキャラの魅せ方が巧いのですよね。

 

主要キャラ数名ならともかく、50を超える様なキャラを描き分け、そしてそのキャラを巧く絡めた集団戦・組織戦を描く構成力…
こんな作家さんはなかなか居ませんよ…。

 

ワールドトリガーオフィシャルデータブックには各隊員の家族構成が載っているのですが、おそらく葦原さんの頭の中には、各キャラクターが育った家庭環境がぼんやりとはでしょうが~どういう家庭環境で育ったが故に今の性格が形成されたという設定が~あるのでしょうね。
だからこそキャラクターに深みが、人間味が生まれる…生きたキャラクターになるのだと感じます。


昨今の多くの漫画・アニメのキャラ造りはホント葦原さんを見習ってほしいわ、と考えるのですよ。
例えば、高校生を主役した作品の場合(特にバトル物)で、親や家庭という物が描かれない事が多々あります…その主役の高校生が親元を離れ一人暮らししているという設定です。
そのキャラクターは自分一人の力で赤ん坊から高校生まで育ったはずもなく、どういう家庭環境・どんな家庭の雰囲気で幼少期を過ごし現在の性格が形成されたのか、そこに納得・説得力を与えるために家庭環境を描く事は重要なのですが…、昨今の多くの作品は、面倒なのか冗長になると考えたのか親や家庭という物を排除し・考える事を放棄し、表面的なキャラ付けのみを行う…そこには納得がないのですよ。

 

過去回想でキャラクターの幼少期の印象的な劇的な・性格形成に影響を与える様なエピソードがあった事を描くという手法もありますが、それよりもやはり長年かけて育み形成された性格の基となった「家庭環境」を描く方が明らかにキャラクターに深みが生まれ納得・説得力が出来るのですよ。

 

別に、キャラクターが持ってるその家庭環境の全てを作品上で描かなくても良いのですよ。裏設定として作者がしっかり設定を持ってさえいれば、その片鱗がキャラのちょっとしたセリフや行動理念に表れ(形成された性格の・育った家庭環境の匂わせを行う)、
読者(視聴者)はそこから想像を巡らしキャラクターに深み、人間味を感じるようになり、納得・説得力が出てくるようになるのですよ。
…しかしこれが昨今見られる様な、キャラのバックボーンを排除・設定放棄して表面的なキャラ付けのみの場合、そのキャラを薄っぺらく感じる事になってしまう訳なのですよ。。。

まぁ昨今の多くの作品が、キャラクター重視ではない・キャラクターで勝負してない、ストーリー展開を重視した作品だ、というのならなにも文句はありませんがね…。

 


…ちょっと話がコミックスからズレましたね。戻します。

 

今巻でのやり取りで、さらに各キャラの深みが増す内容となっていますね。
個人的には諏訪が良かったですね。最初の印象は任務中もくわえタバコのチャラい所のある大味な兄ちゃんかと思っていたのですが、
しっかり隊長なんだなと諏訪に対する認識が変わりましたね。
(あと、諏訪と香取のやり取りには笑いました)

 

他のキャラについても、よりキャラの深みが強まる内容で面白く、また、隊員達だけでなく大人キャラの会話も楽しかったですよ(根付のキャラは好きですねぇ、俺は)、
いやホント終始ニヤニヤしながらページをめくってましたね。

 

キャラ造りが巧いだけでなく葦原さんは話の構成も巧みなんですよね。
キャラの魅せ方、その後の活躍のさせ方という物語展開の先を見据えた構成が巧いですね。

今巻でひと際印象強く描かれているキャラといえば香取だと思いますが、今巻のこの展開・流れもおそらく香取初登場時から計算・構築されていたのだと考えられます。


香取(と華)のキャラは主要キャラ以外では珍しく(というかほぼ唯一?)過去回想が描かれているキャラなんですよね。同じ様な境遇の三輪(華と同じ境遇)には過去回想はなく他のキャラからの語りベースで過去が語られるのみとなっています。


おそらく(今から思えば)、主人公・三雲修と今後深く関わる事が初登場時すでに決まっていたからこそ描かれた(香取(と華)により深みを与える)過去回想だったのでしょうね。

 

葦原さんの頭の中ではどれだけ先の展開が詳細に構成されているんだろうなと今後が楽しみでなりません…無理せず養生して欲しいです。

 

葦原さんが、今後どういう展開を考えられてるのか分かりませんが、ちょっと気になるというか怖いのが、
ボーダー主要キャラ隊員に人死にが出る展開…。

 

これまでは敵の侵攻がありながらもボーダー隊員・A級からB級までが協力しなんだかんだで人死にがなく乗り切り(非主要キャラのC級隊員の拉致や名前も顔も分からない本部隊員の死はありますが)、部活の延長・スポーツみたいな感じでやってきてますが、
もし今後主要キャラ隊員に人死にが出る展開になった場合、作品全体の雰囲気・展開がガラッと急変する恐れがあります…しかし、かと言っていつまでも敵ネイバーをなおざりにも出来ず、敵ネイバーと緊張感のない戦いをやる訳にも行きませんし…と。。。
今後の展開はホント想像がつかないのですが、葦原さんなら良質な「エンタメ」作品を作ってくれる事を信じて楽しみに待ちたいですね。


以上